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「ドキハラ授業参観」

松島永子・仮名

2001年5月9日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

「ドキハラ授業参観」

 新学期が始まり一ヶ月。一年生の初めての授業参観も終った。親も子も、そして担任教師もドキドキハラハラの一時間だったが、案の定、続出したハプニング。そんなドキハラ参観会のあれこれを紹介する。
 
 チャイムが鳴っても教室にいない弘。担任の私以上にあせったのは、母親だった。自分の息子が席についていないことを知ったとたん、いきなり運動場へ。息子が遊んでいそうな場所はちゃあんとお見通しである。まさに「襟首つかんで」連れ戻してきてくれた。弘もさるもの、悪びれるでもなく、息を切らせてにらんでいる母親にピースサインをしている。
 
 幼稚園児の弟が大好きな絵里。母親に手を引かれた弟が教室に入ってくるのを見つけると
「太一くーん。こっちこっち。ここだよ。」なんと弟を自分の席に座らせてしまっている。自分はその隣で床に座り、にこにこ。さすがに私も
「あのね、ここは小学生が勉強するところだから、今日は後ろで見ててもらおうね。」と声をかけた。
「そっかあ。じゃあ太一くん、あとでね。バイバイ。」とすんなり納得してくれたので、私もホッ。ちょっと母親は何してんだ!と思って後ろを見ると、絵里そっくりの笑顔でにこにこしている。あぜん。

 授業参観は算数だった。「さんすうせっと」という教具がある。かぞえ棒や積み木やおはじきなどが入っているのだ。
「では、先生と同じように赤いおはじきを5個出してみましょう。」と言ったとたん、
「ガタン。ザラザラザラ」と大きな音が…。卓也の机の横には「さんすうせっと」の中身がすべて散乱していた。拾ってあげようとするまわりの子を押しとどめ、
「ありがとう。自分のおはじき出そうね。」と、顔はにっこり、心で引きつりながら私は言った。
 当の卓也はばか丁寧に一個ずつおはじきを拾っている。すべて拾い終わるころには授業は終わってしまう。まずい、と思った私の横へ卓也の母親がすっ飛んできた。
「早く拾いなさい。おはじきはこれ。ほら赤いのを五つ出すんでしょ。後はお母さんが拾ってあげるから。ほらちゃんと座って。」
「うん。」卓也は悠然と5個のおはじきを並べ始めた。
 
 四十五分の授業もなんとか終わりに近づいてきた。黒板に向かっておはじきの絵を書こうとした私の背後に、突然「ブイーン」という大きな音が。びっくりして振り向くと、健太が電動鉛筆削りに鉛筆を突っ込んでいるところだった。あまりに突然だったので、参観日だということを一瞬忘れた。思わず
「何やってるの。」と大きな声を出してしまう。
「芯が折れちゃったの。」
「ほかの鉛筆あるでしょ。」
「ない。」二の句が告げずにいた私に背を向け、健太は削り終わった鉛筆を持ってさっさと席に
戻ってしまった。放課後、彼の机の中に芯の折れた鉛筆3本を発見した。
 翌日、保護者からたくさんのおたよりが届いた。奇しくも弘の母親と健太の母親からのおたよりに、同じ言葉が書いてあった。
「先生、うちの息子を見捨てないでくださいね…。」
 お母様方、大丈夫です。こんなハプニングがたくさんあるからこそ、一年生は楽しいんです。次の参観会、期待していてくださいね。
(松島永子・仮名)

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